木造千手観音立像
もくぞうせんじゅかんのんりゅうぞう
概要
穴水町明千寺にある明泉寺は、飛鳥時代の白雉3年(652)に開創したと伝えられる真言宗寺院である。室町時代の「明泉寺古絵図」には20棟を超える建物が描かれ、現在も境内には重要文化財「明泉寺五重塔」が残り、また平安時代の古仏が複数伝わることからも、古くから隆盛を極めていたことが知られる。
本像は、明泉寺の観音堂奥にある厨子に安置されている本尊である。頭頂部に高い頂上仏面、天冠台に化物十面を配する。顔はふくらみのある頬に引き締まった口、落ち着いた眼差しなど慈愛あふれる表情を湛え、首には三道を表す。
大手は四十二臂で、胸前で二手が合掌し、さらに腹前で二手が禅定印を結び宝珠を執る。脇手は蓮華、法輪、水瓶などの様々な持物を手にし、多様な救済の力を表現している。
左肩から条帛を掛け、天衣は両肩を被って膝前に二条を垂らした共彫である。衣文の彫り口が深く谷をえぐり山を残すなど、平安時代前期の飜波式衣文の特徴がみられ、特に膝上に強く表現されている。脇手は直線的であるが、腰と衣のゆるやかな曲線の流れによって優美な印象を与えている。
構造はこの時代の特徴を示す古風な一木造で、頭躰幹部と大手の合掌手を一材で彫り出し、その他の部分は別材で矧ぎ付け、小脇手は一本ずつ彫り出し釘で板に打ち付けている。黒褐色の下地が部分的に残り、僅かではあるが衣文の谷間などに緑、朱色などの彩色仕上げの痕跡が認められる。
平成23年度に財団法人美術院において修理が実施されており、保存状態は極めて良好である。
このように、明泉寺の木造千手観音立像は、平安時代前期まで遡ることのできる特徴がよく表れている数少ない遺例として貴重な仏像であり、文化財的価値は高く、有形文化財に指定し、その保存を図ることが必要である。