蒔絵亀図鞍・鐙
まきえかめずくら・あぶみ
概要
本品の作者は、清水九兵衛(1688年没)と伝えられている。清水九兵衛は、号を柳景といい、寛文10年(1670)に加賀藩3代藩主前田利常に江戸から招かれて、五十嵐道甫と共に加賀蒔絵の基礎を築いたすぐれた蒔絵師である。本品は永らく前田家に伝来し、重要文化財「和歌浦蒔絵見台」と並び、清水九兵衛の代表作として古くから知られていた名品である。
鞍の前輪と後輪は、尾の長い大小の「蓑亀」を黒漆地に金の高蒔絵で生き生きと描き、顔や甲羅などの細部は付描でさらに緻密に仕上げた優品である。蓑亀とは、甲羅に藻が付着し、蓑を着たように見える亀のことで、蓑は雨風から身を守るところから厄除けを意味する吉祥文の一種であり、亀は長寿の象徴であるところから、工芸文様の好題としてよく用いられる。
鐙はくぼみを一か所に設けた片笑の形式で、鳩胸から笑にかけての豪放な意匠と巧みな技法は、鞍と同じである。内面にはきわめて荒い刑部平目粉を置き、装飾的効果を高めている。
鞍の居木の裏側には「貞享三年(1686)/三月日/(花押)」と鞍工のものとみられる刻銘がある。
使用された形跡は見られないが、5代藩主前田綱紀(1643~1724)の所用と伝えられており、鞍銘の年代と矛盾はない。
このように、蒔絵亀図鞍・鐙は、清水九兵衛の作品としては珍しく豪放な趣を見せながら、精緻で格調高い作風が如何なく発揮された貴重な作品であり、文化財的価値は高く、有形文化財に指定し、その保存を図ることが必要である。