銅製経箱(有馬温泉寺伝来)
どうせいきょうばこ(ありまおんせんじでんらい)
概要
経箱の形状、構造、また銘記の書体等、いずれも鎌倉時代のものとして問題ない。銘記にあるとおり、文永8年に俊尊の勧進によって温泉寺に奉納する目的で制作された経箱と認められる。
温泉寺伝来の経箱に関する重要な記録として引用される、『実隆公記』享禄2年(1529)3月8日条、および同じ実隆が執筆した『温泉寺再建勧進帳』があるが、これらに記された3種の経箱のいずれにも、状態等からみて該当しないとみるべきであろう。
ただし本品の法量は、一般的な平安~鎌倉時代の経典を1段につき4~5巻、上下2段で10巻程度を納めるのにふさわしい大きさである。銘記にある「如法経」とは法華経8巻に観普賢・無量義の開結2経を加えた10巻で1セットであったことが想定され、法量と銘記がよく符合する。
いずれにせよ本品の存在は、有馬温泉観光協会所蔵の銅製経箱2合とともに、鎌倉時代における尊恵閻魔王宮往詣説話の流布と、温泉寺如法経に対する信仰の興隆とを背景に成立したものであることは確実である。簡素な形態ながら、銘記によって制作年の判明する本品は、日本金工史上きわめて重要な遺品というべきである。