春字八宝彫彩漆合子
しゅんじはっぽうちょうさいしつごうす
概要
漆の樹液を用いる工芸を漆工といいます。漆工はアジア各地で製作されましたが、製作地によって技法やデザインに特徴が認められます。中国の漆工の代表的な技法は彫漆(ちょうしつ)です。彫漆は漆を何層にも塗り重ねて厚みを作り、その漆の層を彫刻して文様を表わす技法であり、宋時代以後に盛んになりました。
この作品は、円形の箱に黄色、緑、赤の漆の層を塗り重ねて、彫刻の深さを彫り分けながら、色鮮やかな文様が表わされています。蓋の中央には大きく「春」という字が表わされています。よく見ると、字には亀の甲羅のような文様がびっしりと埋められているのが分かります。さらにその「春」の字には丸い窓があって、そこに老人が座って巻物を広げています。この老人は寿老人(じゅろうじん)といい、長寿のシンボルとされている道教の仙人です。字の上の方を見ると、二頭の龍が向かい合っており、また下の方を見ると、火焔宝珠(かえんほうじゅ)や珊瑚(さんご)や犀(さい)の角(つの)などの宝物が山盛りになっており、そこから光が湧きあがっています。見るからに、おめでたいデザインではないでしょうか。もともと、このようなデザインの漆器は、16世紀、明王朝の第12代皇帝である嘉靖帝(かせいてい)の時代に作られました。嘉靖帝は道教を信じていたので、その時代には、さまざまな道教のデザインの工芸品が作られたのです。のちの18世紀、清王朝の第6代皇帝である乾隆帝(けんりゅうてい)の時代になると、そのようなおめでたい工芸品が復刻されました。この漆器もそのひとつです。