竜首水瓶
りゅうしゅすいびょう
概要
このように長い首と下膨(しもぶく)れの胴を持ち、把手(とって)を備えた水差しは古代イランの地に栄えたササン朝ペルシャに源流を持ちます。
また胴には翼をもつ馬、すなわち天馬(てんま)の姿が刻まれています。四頭の天馬は太陽神の馬車をひく動物として知られ、シルクロードの要の地、現在のアフガニスタン中部、バーミヤーンの大仏の頭上の壁画にもその姿が描かれていました。この水瓶(すいびょう)のペガサスには中国唐時代と朝鮮の百済(くだら)の美術の影響が見られ、これらを受容した日本で製作されたと考えられます。これは我が国で表わされた天馬の最も古いものです。
水の注ぎ口と把手は中国の竜をかたどり、蝶番(ちょうつがい)でとめた頭部が蓋(ふた)の役割をしています。
竜首水瓶は、古代シルクロードを通じた壮大な国際交流の結晶ともいえるでしょう。
ササン朝ペルシャでは銀製の水瓶が多く作られました。この作品も銅に銀のメッキが施されています。しかし、銅に直接銀メッキを施すことはできず、いったん金でメッキをしたうえから、銀メッキし、さらに竜の頭部や把手、天馬の文様部分は金で仕上げられています。鉱物資源の活用が十分ではなかった古代の日本にあって、遠い異国の銀器に似せた作品には工人の知恵と工夫を見ることができるでしょう。我が国における古代工芸の傑作です。