柴垣蔦蒔絵硯箱
しばがきつたまきえすずりばこ
作品概要
本硯箱は、絵画的な図様を繊細な蒔絵技法で描いた作品である。特に、金平蒔絵、研出蒔絵、薄肉高蒔絵に描割、針描を併用して表された柴垣と蔦の絡み合う様子が、画面に奥行きを与え、朱と金粉の高蒔絵で描かれた紅葉が秋の風情をそえている。また、蓋裏の鷺、下水板と見込みの雨、芦に波の研出蒔絵では、金や銀の蒔絵粉の色調が微妙な変化を見せている。
本品の丸角で蓋の甲を緩やかに盛り上げたこの硯箱の形態は、江戸時代初期・前期(一七世紀)に好まれたもので、きわめて絵画的な意匠表現は江戸時代の蒔絵が定型化する以前の様式を示す。瀟洒に表現された絵画的な図様、高度に洗練された各種蒔絵技法を特色とする硯箱の優品で、江戸時代における新しい様式を示す貴重な作例である。なお、古満休伯の極めに見える古満休意は、古満家初代当主として知られている。