塩山蒔絵硯箱
しおのやままきえすずりばこ
作品概要
室町時代中期のいわゆる東山期には、高度な蒔絵技術が発展した。それとともに意匠面においても、物語や和歌といった古典に因んだ歌絵意匠が盛行し、多くの名品が生み出された。
本硯箱もその一例で、千鳥の群れ飛ぶ磯辺に松の図様と、図中に配された「君」「賀」の文字から、『古今和歌集』巻第七「賀歌(読人しらず)」のうち、
しほの山 さしでのいそに すむ千鳥 きみがみよをば やちよとぞなく」の歌意、歌枕である「塩山」の情景を意匠化したものと知られる。
各種の蒔絵技術に金貝を駆使した巧緻な技法とともに、蓋表から蓋裏・身の内面へと連関する巧妙で洗練された意匠構成になり、かつ閑雅な風情をたたえた硯箱の優品である。