壺
つぼ
概要
この土器は、貯蔵用の壺です。本格的な水田稲作(すいでんいなさく)が始まる弥生時代になると、人々の食生活は米を中心にしたものに変わり、土器の形にも変化が起こりました。煮炊きのための甕(かめ)、貯蔵のための壺、盛り付けのための鉢(はち)や高坏(たかつき)といった用途別の器(うつわ)が誕生しました。
弥生時代後期から古墳時代前期にかけての伊勢湾(いせわん)沿岸では、櫛のような道具で描かれた文様、櫛描文(くしがきもん)と赤い彩色で飾られた華麗な土器が登場します。この壺は、胴部上半にかけて、繊細な直線文(ちょくせんもん)や波状文(はじょうもん)などが描かれています。また、腰部下半にある鮮やかな赤い彩色は鉄を主成分とするベンガラという顔料を焼きあげる前に塗ったものです。このような装飾をもつ土器は、日本考古学の父・濱田耕作(はまだこうさく)が、ギリシャ・クレタ島の宮廷から出土する華麗な土器に匹敵すると高く評価したことから、「パレススタイル(宮廷式)土器」と呼ばれています。このような土器は特別な儀式や祭りで用いられたと考えられ、当時の墓から数多く出土しています。
本作品は1964年に開催された東京オリンピックを記念して行われた当館の特別展『日本古美術展』で、弥生時代の美を代表するものとして紹介されました。