唐織 緑紅茶段青海波花熨斗扇夕顔模様
からおり みどりべにちゃだんせいがいははなのしおうぎゆうがおもよう
概要
これは、唐織とよばれる能装束です。唐織とは、主に女性を演じる際に着用する表着(うわぎ)のことで、もともとは織物の名称でした。模様の部分の絹糸がふんわりと浮いているので、刺繍のように見えるかもしれませんが、これらの模様は織り込まれています。唐織の特徴は、刺繍のような風合いや、バリエーション豊かなもようの表現にあります。
ベースの色として、緑色、紅色、茶色が石畳模様のように段違いになっているところに、青海波模様の地紋を織り入れています。そこにあらわされているさまざまな模様に注目してみましょう。扇の上に、5枚の花びらを持った花を咲かせる蔓草がのっているのが見えるでしょうか。これは夕顔の花。「扇」に「夕顔」というと、「源氏物語」の第4帖、「夕顔」の章で、光源氏が所望した夕顔の花が扇に乗せて届けられるという出会いの場面が思い浮かびます。このように、模様によって特定の物語がイメージされるというのは、日本の模様やデザインの特徴のひとつです。
ほかには、菊や牡丹の花束が和紙に包まれたような模様もみえます。これは花熨斗(のし)、花を大切に熨斗に包んで献げ、贈り物にするイメージの、おめでたい模様です。おめでたいと言えば、青海波にも、寄せては返す穏やかな波のように平穏な暮らしが続くという意味がありますし、扇は「どんどん栄える、末広がり」という良い意味があります。
物語にまつわる宮廷風の扇模様と、吉祥模様が散りばめられたこのデザイン、高貴な女性役にふさわしい華やかな装束です。