桜に春草図
さくら はるくさず
概要
満開の桜の木が一本、画面の右端で切れて描かれています。木の全体像が見えないことで、かえって桜の枝と空間の広がりを感じます。地面には土筆(つくし)や蒲公英(たんぽぽ)、蕨(わらび)といった春の草花が配置され、あたたかくにぎやかな雰囲気をかもし出しています。書かれている和歌は、もとは室町幕府の第九代将軍・足利義尚に対して詠まれたものです。内容を見てみましょう。
みるたびの けふにまさしと思ひこし 花は幾世のさかりなるらん
見るたびにさらに立派に咲きほこる桜を、将軍の権力にたとえたお祝いの歌です。この絵の注文主を将軍にたとえて褒め称える意味で書かれたのかもしれません。
幹に沿って斜めになったりと、自由な配置で散らされた和歌の文字は、まるで絵の一部のようです。作者の尾形乾山は、陶工としても知られています。乾山の書と兄の光琳の絵、あるいは乾山が器を作り、光琳がそこに絵を描くという兄弟のコラボレーションも行っていました。絵と文字を組み合わせた構成は、工芸作家ならではのデザイン感覚から生まれたものなのでしょう。