藤原鎌足像
ふじわらのかまたりぞう
概要
中央に大きく描かれているのは、飛鳥時代の政治家、中臣鎌足(なかとみのかまたり)です。中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)、後の天智天皇(てんじてんのう)と共に大化の改新を進めた人物です。亡くなる直前に天皇より藤原の姓を与えられたので、藤原鎌足とも呼ばれます。鎌足から始まった藤原氏は、多くの公家を生み出した一族で、そのために始祖としての鎌足の存在は伝説化していきます。後に神格化、つまり神とみなされ多武峯妙楽寺(とうのみねみょうらくじ)、現在の奈良県にある談山神社(たんざんじんじゃ)で祀(まつ)られるようになります。
今回ご紹介する作品は、鎌足を神として描いた肖像画です。このような絵を神像(しんぞう)と呼び、信仰の対象として用いられたと考えられます。鎌足の頭上には、巻き上げられた御簾(みす)。その上には神や霊が乗り移る依代(よりしろ)ともなる三面の鏡、赤いカーテンのような帳(とばり)の奥には藤が絡みつく松を表した衝立(ついたて)が描かれます。色使いは鮮やかで、中央にいる鎌足を引き立てています。鎌足のたたずまいも、どこか威厳に満ちています。
画面下には二人の人物。向かって左側は鎌足の息子の不比等(ふひと)、右側も同じく息子で出家して僧となった定慧(じょうえ)です。仏教絵画の中で如来を中心にその両脇に菩薩が置かれる形式を三尊像と呼びますが、3人の配置はこの形式によく似ています。古来より仏教と日本に存在する神々とを融合させてきた日本ならではの図像といえます。