緋地羅紗違鎌文陣羽織
ひじらしゃたがえかまもんじんばおり
概要
緋地羅紗違鎌文陣羽織
ひじらしゃたがえかまもんじんばおり
東京都
桃山
表地に緋羅紗、裏地に白緞子を用いた袷仕立ての陣羽織である。形状は裾広がりで、大きな背割れをとり、背割れから裾にかけてを思いきった曲線裁ちとし、袖口に向かって広がる袖は、両前袖の袖口をわずかに控えるように仕立てる。表地は幅広の羅紗を前後に折って裁断し、袖下から脇を縫い留めたもので、背表の中央に違鎌文を表す。鎌の刃の部分は黒と白の羅紗を接ぎ合わせて表地に切嵌【きりはめ】し、柄の部分は猪ノ目形の緋羅紗を切嵌した黒羅紗を地裂の上に切付【きりつけ】する。背割れ、裾、前身頃の縁には縞地菊花文繻珍裂を綴じつけ、同様の裂を用いた釦留の胸紐が前身頃の縁取りとあいまって鳥居形を象る。襟は立襟で、表裏両面に段替り牡丹唐草文錦を用いる。裏地は唐花文を織り出した西欧製の緞子で、背裏の中央には丸に「永」字を萌葱色と花色の刺繍で施す。
身丈79.5 裄49.8 肩幅99.6 裾幅85.0 袖つけ丈44.6 袖幅33.5
袖口丈50.0 襟幅3.0〜5.5(㎝)
1領
東京国立博物館 東京都台東区上野公園13-9
重文指定年月日:19990607
国宝指定年月日:
登録年月日:
独立行政法人国立文化財機構
国宝・重要文化財(美術品)
本品は、当時の武将が競って用いた猩々緋と称される緋羅紗を表地としており、背表には白と黒の羅紗による違鎌文が、切嵌と切付の手法を細やかに使い分けて表されている。また、背裏に刺繍で表された丸に「永」字は、桃山時代の能装束等に通例の甘撚【あまよ】りの渡し繍で処理され、この時代の刺繍の特性をよく示す。背表の違鎌文には、敵をなぎ倒すという尚武的意義とともに、諏訪明神の神体としての信仰的意義が込められているとの説があり、胸紐と前身頃の縁飾りによって象られる鳥居形にも信仰的な意味をくみ取ることができる。
近世初期の異国趣味を如実に示す服飾品であり、羅紗を前後に折って仕立てるのに西欧の曲線裁ちを取り入れた大胆で斬新な形態、文様構成・色彩表現・施工などに注目される桃山時代の陣羽織として貴重である。