奥蔵寺 大般若経
おうぞうじだいはんにゃきょう
概要
奥蔵寺(神戸市北区八多町附物廃寺)に伝来していた平安時代書写の大般若経のうちの10巻です。各巻に「久安四年戊辰三月十五日戊寅始之」「同五年己巳二月廿九日壬午供養」「願主散位津守朝臣清兼結女大江氏」(巻371と375は末尾1行が改装の際に切り取られ、巻377以外は「始之」を欠く)の奥書があります。
津守清兼は住吉社(大阪市)社家の一族と思われるが、書写の経緯を含め、詳細は不明。奥蔵寺から転々としていつの頃か兵庫の八王寺に移り、ついで兵庫の旧家の所蔵となりました。ほぼ600巻が揃う数少ない平安時代書写の大般若経として昭和初期から注目されていましたが、現在、分散しています。巷間に流布するものには、江戸時代の兵庫津などの住人の名前が追記されているものがあります。
玄奘三蔵によって、漢訳された『大般若経』は、日本各地に広まり、護国豊穣を祈る法会において転読されるようになりました。本経は、古代神戸の地域社会の営みをリアルに想起させてくれる好個の資料といえるでしょう。
【中世の神戸】