冨嶽三十六景・凱風快晴
ふがくさんじゅうろっけい がいふうかいせい
概要
これは、江戸時代の後半に、浮世絵師の葛飾北斎が描いた木版画で、富士山をテーマとした46枚シリーズの一枚です。日本の絵画の中でも、世界的に知られた一枚ではないでしょうか。タイトルは「冨嶽三十六景」なのに46枚あるのは、人気が高く当初の予定から10枚増えたためです。
作品タイトルにある「凱風」とは、南から吹くおだやかな風のこと。富士山の裾野までを広くゆったりと描いています。人物も描かれておらず、自然の雄大さが感じられる景色です。何より特徴的なのは、赤くあらわされた山肌です。これは、晴天の中に立つ富士山の赤土の色なのでしょうか、それとも朝焼けに染まった色なのでしょうか。
この作品は版画ですから、同じ版木を使っていても、摺りごとに違いがあらわれます。実は同じ「凱風快晴」でも、空や富士山がもっと淡い色をしたバージョンもあり、そちらはだんだんと昇る朝日を受けて景色が色づくプロセスを描いた、といった雰囲気です。一方、東博所蔵のこちらのバージョンでは、青空や赤い富士山の色がよりはっきりとあらわされ、暑い晴天の中に立つ富士、という強さがあるようです。こうした摺りごとのバリエーションが見られるのも、版画の面白さのひとつです。
この作品をはじめ、「冨嶽三十六景」シリーズの最初の頃には、「ベロ」と呼ばれた青い顔料「ベルリン・ブルー」が多く使われています。この時代にヨーロッパから日本に入ってきたもので、北斎の新しいものへの関心の高さが見てとれます。