ヨハネ黙示録(5) するとたいまつのように燃えている大きな星が、空から落ちてきた。

版画  リトグラフ(石版画) / ヨーロッパ 

ルドン、オディロン (1840-1916)
1899年
リトグラフ・紙
30.8×23.0
額装

 第七の封印が解かれた後、7人の天使が次々に七つのラッパを吹く。第3の天使がラッパを吹き鳴らした時、「にがよもぎ」と呼ばれる松明(たいまつ)のような星が落下して、川と水源との上に落ち、苦くなった水のために大勢の人々が死に絶えた。ここに引用されたテキストは黙示録第8章に記されているが、ルドンはこの場面に、第9章冒頭のテキストに基づくいなごの描写を付け加え、一つの画面に二つの章より採られた内容を重ね合わせている。第9章では天から地に落ちてきた星が、底知れぬ所の穴を開いたところ、大きな煙が立ち昇り、その中から、額に神の印がない人聞に危害を加える蠍(さそり)のようないなごが現われる。ルドンは章の異なる二つの物語を、「天から地に落ちる星」という劇的なヴィジョンによって結合させた。画面左側には炸裂する燐光が見られ、燐光の周りには黒煙が描かれ、さらにその周辺部には旋風を引き起こす光の渦が大胆に配置された。画面上方には数匹の巨大ないなごが空中を浮遊している。1913年にルドンの版画をまとめて作品カタログを作成したアンドレ・メルリオは、画面上部真中に水牛が描かれていると注意を促しているが、『黙示録』第8章及び9章のいずれの頁を開いても、水牛に関する記述は見当らない。むしろ、そのいなごのもつ四足獣に似た脚は、第9章7の「出陣の用意のととのえられた馬」を想わせるのであり、さらに「その顔は人間の顔のようであり、また、そのかみの毛は女のかみのようであり……」という記述にも係っているのではないかと思われる。さて、画面全体の印象を述べれば、この作品はこの石版画集の中でも、最も黙示録的といえる劇的表現を誇るものといえるであろう。ここでは他の11枚の版画には表現され得なかった、黙示録の主要モティーフとしての横溢する喧騒の世界が律動的に視覚化された。しかも注目すべきことに、やはり他の作品とは相違して、銅版画的特質を示す明確な描線の動勢が画面を力強く引き締めている。らなみにデューラーの方はといえば、ルドンの直観的な幻覚描写とは対照的に、「七人のラッパを吹く天使」(→[4])の画面左下において、地上の井戸をめがけて一直線に落下してゆく星が、多少とも説明的な運動表現を伴って描かれ、いなごのモティーフは画面右下に添えられただけである。(中谷伸生)

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