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ヨハネ黙示録(9)

・・・これを千年の間つなぎおき

概要

ヨハネ黙示録(9)

・・・これを千年の間つなぎおき

版画 / リトグラフ(石版画) / ヨーロッパ

ルドン、オディロン  (1840-1916)

1899年

リトグラフ・紙

29.8×21.0

額装

 ついに「悪魔でありサタンである龍」、すなわち、かの年を経た蛇は鎖に繋がれ、諸国民を惑わすことのないように、千年間奈落の底に閉じ込められた。デューラーでは醜いサタンの姿で表わされた蛇(→[8])を、ルドンは体をくねらせ、鎖の束縛から脱出しようともがくS字型の蛇の姿で表わしている。蛇の不気味な姿は、開いた口、目、鱗の形態に至るまで、克明かつ生物学的な精確さをもって迫真的に描かれており、こうした特徴は、ルドンがボルドーの田舎町で微生物学者アルマン・クラヴォーに教えられた生物観察の影響を端的に示すものと考えられる。いずれにしてもこの作品は、ルドンの幻想的ヴィジョンの根底には常に精緻な自然観察が存在していることを明らかにする一例である。さて暗がりの中では、中央の蛇の下に鎖を繋ぎ止めている円形の蓋状の物体が見られ、その周辺部では明るい燐光が、凹凸のある大地の数個所を照らし出している。蛇は、その怪奇な姿と戦慄をもよおさせる暗鬱な性格とによって、とりわけルドンが興味を示したモティーフである。おそらくこの理由によって、そしてまた魔的な暗黒の世界という好みの主題に触発されて、彼は『黙示録』第20章の冒頭に記された数行の文章から、〔8〕に続けてこの〔9〕をも連続して扱うことになったのだと思われる。さて画面全体から受ける印象は、われわれに深海の底の暗さを連想させる。そういえば、ルドンの作品との事実関係は全く指摘されていないのだが、この時代にはルドンより12歳年上の科学冒険小説家ジュール・ヴェルヌが健筆をふるっており、代表作『海底二万里』は、ルドンの「聖ヨハネ黙示録」に先立つ約30年前の1870年に出版され、多くの読者に拍手喝采をもって迎えられたという。(中谷伸生)

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